|
九戸村の折爪岳、またの名を江刺家岳と言い、あまり大きな山ではありませんが、どこからでもよく陽のあたる眺めのよいヌポーとした山があります。
山の麓は、広い草場がひらけ、牛や馬の牧場になっていたと言われております。
ある夏の日、牛番の若者が、夕暮れになったので帰ろうとしたとき、なんと向こうの薮の中にピカッと光る物に気づきました。「あれ、なんだべや」
と驚いている若者の前に、二つの目玉の光り物が、ガサガサと薮から姿を現し、ピョン、ピョン
と跳びながら近づいて来ました。
さて、そのものといったら胴の太さは二升樽ぐらい、フクロウのような目玉の顔と下半分は人間みたいな2本足の怪鳥でした。
「あれっ、こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべか」若者はこんな事を腹の中でチラッと思いました。
すると、怪鳥も「こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべかと思っているな」とおうむ返しに言い、その後で「ドデン、ドデン」と叫びました。

若者は自分の心を読まれたこの一言でびっくりドウデンし「おっかね」「おっかね」と、逃げるように名主の所まで帰って来ました。怪鳥も大きな声で「おっかなく
ないぞ、ドデン、ドデン」と、あとからピョン、ピョン跳ねてついて来ました。
若者について来た怪鳥を見た名主もびっくりドウデンし、「なんだな、これは」と尋ねました。若者は「オ、オドデさまです」と答えました。「ふうん・・・オドデさま」とうなづいた名主は、そのあとで「うーん、これは見世物に売ったら、えらい金儲けになるかも知れない」と、チラッと思いつきました。
すると、とっさにオドデは「これこれ名主、そなた今、おらを見世物さ売ったならば、金儲けになると思ったな、ドデン、ドデン」とまるで手のうちを見透かすように言いました。
「へへっ、これはたまげたオドデさまだ、口も聞ければ、人の心も読む、神様に祭り
ますので、どうかご勘弁を」と名主はあまりの事に仰天、さっそく神棚にオドデさま
を安置しました。
この話が直ちに村中に広がり、村の人たちは、一目拝みたいものと集まってきまし
た。オドデさまは神棚の上で人々を前にし、「あしたの朝は晴れるドデン、ドデン」
と言いました。するとその通り、翌朝は雲一つない日本晴れになりました。
「では、晩方はどうであんすべが」とおそるおそる伺いを立てると「晩方は雨、ドデン
、ドデン」と答えると、夕方にはオドデさまの言う通り雨がザァーザァーと降りました。
これなら占いもできると、名主は立て札を立て、紋付き羽織り袴で新しくつくった「さい
銭箱」の横にどっかりと座りました。
占いがあまりにもぴたりと当たるので、「さい銭箱」はすぐに一杯になり、大繁盛とな
りました。
欲の深くなった名主は「さい銭料」を値上げし、今度は大きな「さい銭箱」を用意し、ジ
ャランジャランとおさい銭を鳴らしては、名主はほくほく顔でした。
ところが、その銭音を聞くと、天井ばかり見上げていたオドデさまは、珍しく下を見下ろし、さい銭箱を抱えた名主の前にはいつくばっていいる参詣人を見て、「シラン、シラ
ン、ドデン、ドデン」と叫びながら、江刺家岳の方に飛び去ってしまいました。
「あれっ、おらの銭箱がにげるウ、オドデ様が飛んでいくー」と名主は青くなって騒ぎ
立てましたが、もうその時は、当のオドデ様は、森の向こうに見えなくなってしまいまし
た。
オドデさまは飛び跳ねて、牛番をしている若者の所まで来ると「お前はええ奴じゃ、お
前におらの不思議を授けてやる、ええ月日を暮らせや、ドデン、ドデン」と言ったかと思
うと、若者の前で一つの石になってしまいました。
若者は、不思議な力をもらっても、一生牛番で通し、一度もその力を試した事がなかっ
たと言われ、今でも折爪岳の奥深くから、オドデさまらしき声を聞くと言われております。

|